小森邦衞(こもりくにえ 1945年生まれ ) 石川県輪島市出身の日本の漆芸家。
2006年に髹漆の重要無形文化財「髹漆」技術保持者に認定され、漆本来の美しさを追求した作品を制作されています。
髹漆の人間国宝 小森邦衞氏の美しい作品の紹介とともに、特徴とその成り立ちを説明していきます。
楪子(ちゃつ)5個組 径10.5×高3.7㎝
「漆を塗る技」の事を髹漆(きゅうしつ)といいます。この作品を見るとわかるかと思いますが、漆のなめらかさと艶やかに輝く美しい塗が際立っているかと思います。
加飾はせずに形と塗の美しさを追求した小森氏の作品は、漆本来の持つ力強さを秘めつつも、何とも言えぬ美しさと柔らかさで表現され、小森氏の厳しくも優しく大らかな人間性と重なります。
小森氏の作品の多くは、籃胎(らんたい) 曲輪(まげわ) はりぬきという技法でつくられた素地に、麻布を貼り、篦(へら)で下地を6、7回付け、砥石、木炭で研ぎ、精製した漆を刷毛で4、5回塗り仕上げます。
輪島塗は分業制で作られていきますが、小森氏は自身の手で素地からつくりあげます。
素地の緻密な技術と髹漆との調和がこの世のものとは思えない、品格ある美しい作品となります。
特徴2 「美しい素地」へとつづく
網代隅切菓子器 20×20×高8.9㎝
籃胎字喰籠 径18.9×高7.3㎝
漆塗りをするためには素材を加工し器物(形)にする必要があります。
その器物(形)を素地といいます。写真の作品は、緻密に竹を編んだ素地の上に漆が塗り重ねられています。竹を編んだ目が文様となって浮き出し、上品で飽きのこない美しさが際立つ代表的な作品です。
小森邦衞氏の作品の多くは、「はりぬき」「挽物」という素地や、「曲輪造」 「籃胎」を使った素地のものが多くみられます。
特徴3 小森邦衛作品の素地の特徴 「はりぬき・曲輪造・籃胎」につづく
手前から 糸目金彩細棗 径5.6×高8.6㎝
真塗中棗 径6.7×高7.0㎝
はりぬき八角茶器 6.7×6.7×高8.1㎝
上の写真一番奥の作品【はりぬき八角茶器】
和紙の素材感を活かし、和紙の独特の柔軟さが表現されています。
「はりぬき」とは、型に和紙を張り漆で塗り重ねて素地とする技法。小森氏は木型で型を作り水で和紙を1枚貼ります。乾いた後、その上からさらに和紙をわらびのり(※)で貼り重ねていきます。型から外した後、漆で塗り重ね、素地とします。竹や木に比べてとても軽いのが特徴で、自由に形を作る事ができます。
簡素・端正・華奢でありながら大変丈夫な素地が「はりぬき」です。
※蕨(わらび)のりとは蕨の根っこから採れるでんぷん質。
曲輪造黄漆金彩食籠 径22.5×高10.3㎝
上の写真の作品は曲輪造技法を生かした小森邦衞氏の代表的な作品です。
「曲輪造」とは、桧、ヒバ、アテなどを柾目割にし、木材の薄板を環状に曲げ、個々の曲輪を組み合わせて素地を造形する技法。曲げ物の手法は古く正倉院の宝物の中にも見られます。
曲輪造の縁の部分の構造
「曲輪造黄漆金彩喰籠」は、それぞれの曲輪に黄漆、黒漆を塗り、塗りあがったのち金彩を施し組み上げます。木地を作る段階から綿密な計算をし、寸分狂いなく造形される曲輪作品は、小森氏のひたむきな生き様と人生の重みが重なるかのような作品で、見る人の心を打つ。小森氏の磨き抜かれた心と技が一体となった作品です。
籃胎香合 径6.3×高3.0㎝
上の写真は籃胎を素地とした作品。竹を編んだ目を文様とし面には凹凸があるため、素地に研ぎはできないのですが、刷毛を残さず塗り上げる。
塗の美しさと技術が際立つ作品です。
籃胎とは竹を細かく裂いて表皮を剥ぎ、それを編んで器胎とする技法による素地。籃胎の「籃」は竹かごのこと。「胎」はボディーのことである。籃胎は水漏れのない軽い器として古く縄文時代から使われていたと思われ、日本各地で出土されています。竹ものさしで使われているように、温度、湿度による変化が少ないため、漆器の素地に大変適しています。
本来籃胎は漆を塗り重ねるため、竹の編んだ文様を見せません。しかし小森氏は30代半ばごろに、独自の美意識により竹の網目をみえるように作品を仕上げるようになりました。素地のほとんどを竹で編んだ作品を「籃胎」、指物などと併用し網目を文様としたものを「網代」というように使い分けています。
特徴4 「網代と作品」につづく
写真の作品は、あえて漆を薄く仕上げ、編み目を作品の表情とした「網代(あじろ)」という技法を使った作品です。
網代を用いた作品のほとんどは、黒と朱の漆のみで仕上げられていますが、単純なものはなく、端正ながらも、手触りの柔らが感じられます。輪島塗の枠に捉われない独自の個性を放つ品格ある作品です。
竹を細かく裂いて表皮を剥ぎ、それを編んで文様とする「網代」は、竹ひごを井桁状に配置し、くぐらせる本数を変えることによって模様を作る技法です。
小森氏が用いる竹ひごは、幅は2ミリ、厚さは0.2ミリと大変細く、高度な技術が必要となります。
作品の製図を起こし、花編み、開き編み、閉じ編みなどを駆使し、曲げ輪で縁を作る工程まで、全て自身の手で行います。
秋
冬
春
夏
(「人間国宝記念 髹漆 小森邦衞」 編集・発行 財団法人 輪島漆芸美術館 より抜粋)
小森氏の工房を訪れると凛とした空気が流れ自然と背筋が伸びます。いつも快く迎い入れてくださり漆に向き合う心の在り方を学ばせていただいています。
手前より
網代小箱 21.2×11.2×高5.8㎝
糸目中椀 径12.7×高8.2㎝
掻合せ銘々盆 5客組 径14.5×高1.7㎝
小森氏は最初沈金の技術を学びその後、塗を赤地友也先生に、籃胎技術は太田儔先生に学びました。輪島塗の多くが分業によって完成する漆器ですが、小森氏の作品は素地から仕上げに至るまでの一貫制作により、創意あふれた作品を発表。数々の受賞を重ねております。
数ある素地技術の中でも、特に籃胎(竹ひごを編んで形成した素地)は大変な手間と時間を要します。自ら竹を切り出し細かく削ぐところから作る籃胎を用いた作品は、年間制作はわずかながらも、造形と塗の美しさに繊細な手仕事が調和した代表作品となっています。
小森氏の作品を手にした時、何とも言えない心の安らぎと緊張感を感じます。
漆の力強さがこの世のものとは思えない柔らかい美しさとなり、使い手の心を震わす。
漆に向き合い、漆の力を確かな技術と心で丁寧に丹精に表現した小森邦衞氏の作品の数々。
脈々と受け継がれてきた日本最高峰の技と重要無形文化財保持者としての技術の高さ。
拘りぬいた素材 技術 想い 歴史。
輪島で生まれる素晴らしい作品を是非手に取り触れ、感じて頂きたいと思います。
1945年 石川県輪島市に生まれる1977年 第24回日本伝統工芸展入選 以後連続入選
1986年 第33回日本伝統工芸展出品作「曲輪造籃胎喰籠」
NHK会長賞受賞
1989年 第36回日本伝統工芸展出品作「網代縞文重箱」
NHK会長賞受賞
1993年 「塗の系譜」展 (東京国立近代美術館)
1995年 日本の工芸「現代と伝統」展 (ロンドン・ビクトリア&アルバート美術館)
2002年 第49回日本伝統工芸展出品作「曲輪作籃胎盤」
日本工芸会保持者賞受賞
2004年 MOA岡田茂吉賞展大賞受賞
2006年 紫綬褒章受章
重要無形文化財保持者「髹漆」認定
2012年 日本の「匠」展(フランス・パリ装飾美術館)
日本のわざと美-近代工芸の精華-(イタリア・フィレンツェ・ビッティ宮殿)
2014年 重要無形文化財「輪島塗」
技術保存会会長
2015年 旭日小綬章受章
2016年 句集「漆稽」上梓
その他 各地、全国の百貨店、ギャラリーにて個展開催
現在
重要無形文化財「髹漆」保持者(人間国宝)
(公社)日本工芸会理事漆芸部会長
石川県立輪島漆芸技術研究所所長
石川県輪島漆芸美術館館長
重要無形文化財「輪島塗」技術保存会会長
(一財)石川県美術文化協会副理事長
石川県輪島市在住
完成品の販売もありますが、小森先生の作品の多くは数が限られております。
また、大変な手間と時間を要しますので、年間制作数は少なく、受注制作作品は、内容によりますが1年から3年程お時間をいただきます。
高洲堂では小森先生の作品販売の橋渡しをさせていただいております。
作品を事前にご覧になりたい方、購入をお考えの方は下記お問い合わせホームよりお気軽にお問い合わせ下さい。
受注品に関しましては、ご足労おかけしますが輪島にお越しいただき、お打合せさせていただくこともございます。
作品はお椀、銘々皿など日常使いの器や喰籠、棗などの茶道具、設え品の香合、パネルなどがございます。
また、小森先生は大変お忙しいため時期によってはお受けできない場合もございますので、ご理解頂きご連絡頂ければと思います。
世の中がどんなに進化・変化したとしても
芸術や工芸の美に
心を震わせる時間が日常でありますように
🄫 2020 KANAEYA